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クラウド、IT、女性をめぐる本と思考の旅

難病闘病記ではなく、道なき道を切り開く、自己実現の本――大野更紗『シャバはつらいよ』

シャバはつらいよ (一般書)

シャバはつらいよ (一般書)

 

 エネルギーのある人、世の中を本気で変えたいと思っている人が、入れ物(身体)にディスアドバンテージを背負ったとき、それを障害として歩みを止めてしまうのではなく、むしろ利用して更に前に進むことができるのだ、ということ。それがまったく悲壮感なく、かといって飄々としているわけでもなく、まさしく等身大に、ユーモアたっぷりに自己描写されている。その姿が本当に凄いと思い、共感し、感動した。そして最後はやっぱり、勇気をもらった。

著者は、仮に難病にならなかったとすると、ミャンマー難民研究の道で業績を残すとか、あるいはNPOとかに行って現地の人たちを支援するとか、そういった方面で大いに力を発揮する人だったのだろうなと思う。実際、大学時代にそういった関心を持って積極的に活動し、社会に出てからも活躍されている方は多くいらっしゃると思います。それがたまたま難病を背負ってしまったが故に、道なき道を自ら切り開いていくことになったと。

前作『困ってるひと』を読んで、読み物としての面白さはもちろんなのだが、ただの"エンタメ闘病記"として面白かったのではなく、彼女自身が背負っている何かのミッションがあり、様々な困難を与えられながらも、それを実現しようとしている姿を見たいと思って読んでいたような気がする。それが今回の『シャバはつらいよ』では更にはっきりと示されていたと思います。

3.11の大地震が起こった時、著者は難病を抱えた人が、災害に遭った状況で、何に困っているか、どうしてほしいかを発信し、人々をつなげようとします。自分自身が薬を手に入れられなければ生死に関わるという状況の中、それでも人の役に立ちたいと考えて行動する人が、ここにいたんだということに素直に感動しました。

その時自分のことを振り返ってみると、なんで自分はぼんやりしていたんだろうと思う。夫が出張で不在の中6か月の子供を抱えて育児休職中の身で、その時は自分の子供の安全をどう確保するかということしか頭になくて、ほかの人の役に立つために自分が何かできるとはとても思えなかった。でも本当は、やろうと思えばなんでもできたのだと思う。できるかどうかでなく、自分が何をしたいと思い、どうすればできるかと考えること。当たり前のことですが、当事者としてそこに踏み込むことの勇気を、教えてもらったと思います。