Beyond the Cloud

クラウド、IT、女性をめぐる本と思考の旅

日本のクラウドマーケットは本当に拡大しているのか?

IDC Japanが2015年 国内IT市場の主要10項目を発表した。

~ 第3のプラットフォーム上で加速するイノベーションと市場拡大 ~ 2015年 国内IT市場の主要10項目を発表

概要は以下のとおり。

1. 国内ICT市場は微減傾向にあるが第3のプラットフォームの成長は続く
2. エンタープライズモビリティの試用期間は終了し導入効果が厳しく問われる
3. 2015年はクラウドネイティブ時代の幕開けとなる
4. ビッグデータを活用したデジタルマーケティングに向けたIT投資が始まる
5. 第3のプラットフォームはITインフラサプライヤーの自己変革を加速させる
6. IoTプラットフォームを巡るサプライヤー間の覇権争いが激化する
7. 企業内ITユーザー部門が主導する投資プロジェクトが増加する
8. ニューワークスタイルに取り組む企業の増加と職業の再定義が始まる
9. 次世代のセキュリティ技術の導入が進む
10. 各産業のトップ企業が第3のプラットフォームをビジネスプラットフォームとして活用し始める

どれもなるほどと思う反面、私がなんとももやもやしているのはこの辺の部分。

2013年~2018年の年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)では、第2のプラットフォーム市場はマイナス2.9%であるのに対し、第3のプラットフォーム市場は4.3%であり、ICT市場の成長を牽引する。2015年の第3のプラットフォーム市場における成長率は、4.6%とプラス成長を維持するのに対し、第2のプラットフォーム市場は3.9%のマイナス成長である。国内ICT市場においては第3のプラットフォーム市場が成長を牽引する。

2015年で言うと、第2のプラットフォーム(クライアントサーバーシステム)がマイナス3.9%であっても第3のプラットフォーム(モバイル、ソーシャル、ビッグデータ、クラウド)が4.3%だから、トータルでプラスでしょ、新しい領域増えてるよね、というロジック。でもこれって本当なんでしょうか?

日本のITマーケットにおけるシステムインテグレーターとユーザー企業の関係

日本の企業のIT基盤のほとんどはSIerがおさえている。設計から構築、運用まですべてSIerにアウトソースするのが普通で、ユーザー企業はそれをレビューするだけ。SIerは大体において自社の取り分を多くするためにがちがちにスクラッチで作りこんだシステムとかオンプレミスで重厚長大なシステムを作って膨大な初期コストを積み上げる。ただしだいたいダンピングされて初期の利益は薄いので、最初にがっちり作りこんでベンダーロックインの構造を作り上げ、運用や追加開発で利ザヤを確保する・・・というのが大体のパターンかと思います。

 

ユーザー企業にとっては、自社内で作ってないので、中身がよくわからず、ITベンダーにだまされてるんじゃないかと思いますよね。だから大企業のIT部門は外部に切り出されて、ベンダーをかねたシステム子会社にして、身内で固めることが多い。資本関係があればガバナンスもきかせられますから。

対して、欧米系の外資は自社内のIT部門が内製でシステム開発までしているところが多い。ベンダーから調達するのはあくまでパーツとしてのハードウェアやソフトウェアで、それを組み上げてシステムにするのはあくまで自社のIT部門のエンジニアです。だから内容を自分たちですべて把握しているし、丸投げはしない、そしてがちがちのスクラッチを嫌がる。コストがはねあがるから。標準サービスが基本のクラウドがアメリカを中心に発展してきた背景には、こういうIT部門の構造も影響しているんじゃないかと思います。

クラウド」は本当にクラウドか?

で、そんなSIerがおさえている国内のITマーケットが、そうやすやすとユーザー企業主導のクラウド基盤に移行するかというと、そんなに簡単ではないですよね。クラウドが目指しているのは、標準化されたサービスをいつでも簡単に安く使えるという世界。これまでSIerがロックインしてきたシステムをユーザー企業自身が作ることができるようになってしまうと、SIerにとってのビジネスが危うくなる。ところが、ユーザー企業には自社でクラウドを構築・運用できるノウハウもなく、今までのシステムを抑えているSIerが強いので、結局ベンダーは変えずにこれまでオンプレで構築してきたものの一部をクラウドに移行して多少のコスト削減をはかる、というのが一般的な「クラウド移行」の落としどころと言えるでしょう。実際、多くのSIerが自社のクラウドサービスや他社のクラウドサービスを活用したシステムを「クラウド」と言っているものの、実態はSIerが使う基盤がオンプレのサーバーからクラウドになっただけで、実態はほぼSIに近いとい。

そう考えてみると、第2のプラットフォームのマイナス3.9%を補うはずの第3のプラットフォームの4.3%は、乱暴に言うならば、旧来のオンプレのシステム基盤がそのままクラウド基盤に移行しただけでないかというように見える。プラスの0.4%だけが、これまでのIT投資にはなかったクラウドネイティブな使い方(ビッグデータによるデータアナリティクスとかIoTとか)なのではないかという気がします。そして、そういう本来のクラウドの使い方ができるユーザー企業はおそらくごくごく少数で、日本のSIerとユーザー企業の関係性が変わらない限り、今後も急激には増えないのではないかと思います。

結論

クラウドマーケットは伸びているかもしれないが、それは旧来のオンプレのシステムがクラウドに移行しているだけ。日本のSIerとユーザー企業の関係性が変わらない限り、本来のクラウドの使い方は大幅には増えない、というのが私の考える結論。