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クラウド、IT、女性をめぐる本と思考の旅

リーダーシップの資質の交代――『女神的リーダーシップ』

女神的リーダーシップ   世界を変えるのは、女性と「女性のように考える」男性である

女神的リーダーシップ 世界を変えるのは、女性と「女性のように考える」男性である

 

リーダーシップについて考えているときに、トップダウンではない、しなやかなリーダー像ってどんなものだろう?ということを考えていた。その一つの解が、この本の中にあると思う。

この本は、女性のリーダーについて書かれた本ではない

実際に本書の中では紹介されているケースには多数の女性リーダーが登場するが、重要なのは、それが実際に女性か男性かであるかということではなく、リーダーシップを構成する要素として、従来「女性的」とされてきた資質――共感力、利他、協力、コミュニケーション、忍耐強さ、柔軟性など――が、従来「男性的」とされてきた資質――強い、勇敢、決断力、プライドが高い――よりも重要視されているということが主眼である。まさにサブタイトルに「世界を変えるのは、女性と『女性のように考える』男性である」とあるように。

そしてこの主張は、世界のGDPの65%をしめる13か国、6万5000人を対象にした調査の結果に基づく仮説からスタートし、世界各国の実際に取材して収集したケーススタディによって裏打ちされるという結果になっている。

その膨大なケースが滅法面白い

  • ロンドンのカーシェアリング「ホイップカー」
    マイカーを見知らぬ人に貸し出すサービス。「人間は基本的に誠実だ」という前提に基づいて、効果的なテクノロジーとルールさえ整備すれば、愛車をきれいな状態できちんと返してもらえるということを証明している。価値あるものを短期間だけ必要とする人に、お目当てのものを提供する機会を提供するという発想。
  • アイスランド憲法改正
    2000年代初頭の金融バブルによって一時的に株式市場や不動産価格が高騰したが、バブルがはじけ、国の経済は一気に破綻。その後に登場した女性の首相が、思慮深さと責任感をもって全国民を巻き込んだ憲法改正を行い、そのプロセスをすべてネットで公開。それによりアイスランドの危機的状況は快方に向かう。
  • イスラエルの都市ホロンの再生
    荒廃した都市を再生するため、「子どものための都市」という標語をかかげ、それを実現するためのプランを追加コストなしで実現したというもの。廃校を利用した博物館やアートセンターはほとんどが「手弁当で」とリーダーが頼み込んだおかげでほぼコストゼロに近かった
  • ケニアの通信会社が金融機関を凌駕する
    携帯電話網が発達したケニアにおいて、金融機関よりも安全な送金手段をサービスとして提供したサファリコムの例。経済活動の活性化だけでなく、新生児死亡率の高さの改善や、子どもの教育といった生活全体の水準を引き上げるという方向へ。

まだまだあるのだが、あげるときりがないのでこのへんで。

この本の中で紹介されていないこと

上にあげたように、新規のビジネスを立ち上げたり、一部の国や都市で状況を改善した事例は数多く紹介され、これらは新しい時代の価値観の到来を予見される大変興味深いものだと思う。だがふと自分の身近に立ち戻ってみたときに、はたしてすでにある企業、営利を目的とした企業、大企業の中で、こういったリーダーシップの交代劇は行われるのだろうか?ということに思い当った。

 

その答えはYesだと思いたい。

思いついたひとつの例として、たとえば最近米ヤフーを立て直したと評判のマリッサ・メイヤーについてはこんな風に言われているらしい。

ヤフーのマリッサ・メイヤーが示す新たなリーダー像:プロダクトとアイデアの管理を徹底する : ライフハッカー[日本版]

「彼女はメンバー同士に必要なコネクションを作るために動き、彼らをひとつにします。才能ある人々による小さなグループが構成する既存の組織に注目し、彼らへの共感を元に緩やかなパワーを発揮し、各メンバーが持つスキルを大きく伸ばすように努めるのです。

メンバーががこれまで成し遂げてきたことを台無しにするようなことをしない。ゼロから組織を作るのではなく、各人材を水平につなぎ合わせます」

これは「女神的リーダーシップ」に当たるような気がする。

 

古くからある企業、「男性的」な価値観が優位にあった企業で「女性もしくは女性のように考える男性」型のリーダーが出てくることにより、組織間の断絶や対立、そしてそれらにより発生する無駄なコストがなくなり、一つの方向を向いて新しいことを生み出せるようになるのではないか。そんな風に思います。