Beyond the Cloud

クラウド、IT、女性をめぐる本と思考の旅

2045年の目覚まし時計

 『ワーク・シフト』を読んでいます。2025年の未来を予測し、その時代の働き方、価値観についての考察を詰め込んだ本。リアルなデータに基づいているので、ネガティブな予測もたくさん出てくるけど、とても前向きで明るい未来を志向できる本。

 読んでいるうちに、私も未来を予測したくなりました。とはいえ学者でもアナリストでもコンサルタントでもないし、客観的なデータに基づく予測はこの本の中で相当されつくされている。私が得意なのは、思い込みに基づくディテールの妄想力(笑)なので、事実に基づく予測が当てにならなそうな、10年後よりももう少し先、30年後くらいの未来を勝手に想像して書き連ねてみたいと思います。

 

  時は2045年。ちなみに人口面だけで見ると、世界の人口は、2014年の70億人から100億人へ。一方、日本の人口は1億人を割り、3人に一人以上が65歳以上の高齢者になっているらしい。

未来年表 : 分野検索 人口 2045年 | 生活総研

(2)将来推計人口でみる50年後の日本|平成24年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府

 

Every morning gently wakes me up.

 耳元でハープが心地よいメロディを奏でていた。音ははじめ遠いところからやってきてだんだんと近くなり、意識を眠りから覚醒へと移行させるための準備を始める。音の量は大きくはないが朦朧とした意識を目覚めさせるには十分なように設計されている。19世紀に作曲された古風な音楽の主旋律を奏でた後、それでも意識の持ち主が起きる気配がないと判断し、次にドラムの重低音と雑踏のノイズ、生活音が混じる猥雑な音によって積極的に起こしにかかった。

 そこでやっとミツアミはまぶたを開け空間に3Dシグナリングする「アラーム 停止」の表示をハンドジェスチャーで解除する。寝ている間の偶発的な手の動きによって意図せぬ解除が行われないよう、ハンドジェスチャーは複雑なパターン性のルールが設定されていた。具体的には、こうだ――数字の3と6を順に書き、それから両手を交叉させた後、腕を両側に広げ、最後に右手で自分の額にチョキの形の手を2回押し付ける。

 動作は個別にカスタマイズ可能だが、同じようなパターンの動作を複数種類設定する必要があった。この動作の煩雑さと馬鹿馬鹿しさのあまり起きざるを得ない、というのがこのアラームインスタンスの意図するところらしい。

 アラームインスタンスをジェネレートしてしばらくはジェスチャーを覚えきれず、枕元に置いたメモを見ながら何度も停止の操作を繰り返し、10段階設定の後半――シンバルと重低音のドラムが高速で脳内に鳴り響く――に至ってやっと解除できるという具合だった。

 しかも厄介なことに、アラーム音は隣に眠る家人や子供の眠りを妨げないよう、本人の脳内にしか聞こえないような周波数にチューニングされている。それを受け取るのは耳の後ろに張り付けたうすっぺらい半導体チップと脳内スピーカーだ。テクノロジーは半導体を紙に近いレベルまで薄くし、人体に直接貼り付けることを可能にした。おかげでいまやヘッドセットやイヤホンを頭や耳に引っ掛けている人間は、よほどのアナログマニアだと思われている。昔はこれがファッションアイテムだったなんて嘘みたい。骨董品の真空管アンプを高いお金を出して集めていた祖父のことが、ちらりと頭をよぎった。

 このアラーム飽きたな、そろそろ別のにしようかな、と思いながらミツアミはベッドの上で上半身を起こした。ジーニーに今度新しいのをジェネレートしてもらわないと。ミツアミの忠実な召使であるはずのロボット、ジーニーは主人がベッドから起き上がるのを待たずにとっくにスタンバイモードから復帰していた。ジーニーが部屋のすみからミツアミのそばになめらかな動きで近づいてくると、ジーニーの筐体に斜めに埋め込まれた液晶パネルが点灯し、上の空間にさまざまな「お知らせ」を示す表示が浮かび上がった。ミツアミはそこでやっと立ち上がって、ベッドルームを出てリビングへと向かった。(続く)